7月31日(金)
私たちはこの数ヶ月間、これまでになかったことを経験してきました。皆さんはもちろん、先生方、おうちの方々もたくさんの我慢や努力や工夫を重ねて、今日、無事、1学期の終業式を迎えられました。このことをまず感謝し、喜びたいと思います。みなさん、本当によくがんばってくれました。そして、この経験を決して無駄にしないでおこうということを今、改めて伝えます。
休校中の5月に、私は、テレビで競泳選手の池江璃花子さんを取り上げた番組を見ました。皆さんも知っているように、池江さんは中学生の頃から飛ぶ鳥を落とす勢いでどんどん日本記録を塗り替え、東京オリンピックでの活躍は確実と言われていました。しかし、昨年の2月、彼女が高校3年生の時です。白血病という病に冒され、入院を余儀なくされてしまいます。直後の卒業式に出席することもできず、夢だった東京オリンピックへの出場もかなわなくなってしまいました。入院中に迎えた19歳の誕生日は、ベッドの上で起き上がることさえできない状態でした。
私たちの印象にあるのは、いつも屈託のない笑顔の池江さんです。でも、「生きてることもしんどいレベル」という体調の悪さと戦いながら、入院中仲良くなった同年代の女性と何度も一緒に泣いていたそうです。そして、この女性とつらさを共有できたことが大きな支えになったといいます。周囲の人にも支えられ、病気になってしまった事実を受け止め、ネガティブに捉えることをやめました。
10ヶ月後、無事退院することはできましたが、体重は10キログラムも減り、筋肉はすっかり落ちてしまっていました。でも、早く泳ぎたいとの一心で治療とともにトレーニングを重ねていきました。その結果、ようやく医師から許可が下り、プールで泳ぐ彼女は、はじけるような笑顔で、心から水の感触を楽しんでいるようでした。
池江さんは、こう言います。「以前はライバルや記録との戦いだったけれど、この経験を通して、病気と闘っている人に勇気を届けたいと思うようになった。自分だからこそすべきことがあるという使命感のようなものだ」と。
新型コロナウィルス感染拡大の中、献血をする人が減ってしまったというニュースを聞くとすぐにSNSで献血を呼びかけました。また、ちょうど1週間前の7月24日、国立競技場で開かれた東京2020プラス1のイベントでは、「逆境を乗り越えるためには希望の光が必要だ」とアスリートたちにエールを送りました。白い衣装を身にまとい語りかける姿はとても美しく、彼女自身が希望の光だと感じました。
その生き方、メッセージはまちがいなく人々に力を届けてくれています。まさに経験を糧として大きな成長につなげたお手本ではないかと思うのです。
予期せぬ出来事を避けることはできません。けれど、それとどう向き合うかを決めるのは自分自身です。いつもと違う1学期を乗り越えた皆さんです。これからも自分自身と大切な人たちのためによく考えて行動し、2学期始業式にはお互い元気な姿で会えることを願っています。
校長 今井 亜矢子